砂のオベリスク~第七大陸紀行~
無限のフィルム
七日分の燃料を積んだ列車は、休むこと無く走り続けた。
先頭車両の煙突からは黒煙が尾を引いていたが、私とエンの乗る荷物車の上に来るころには、その尾はすっかり夜の闇に紛れていた。
エンは私のことを名前で呼ぼうとはせず、私がフグラァレスという雑誌の記者だということには何の感慨も見せなかったが、私の持つカメラに興味を持った。
「祖父の形見だよ。かなり古いやつでね、五十年くらい前のものさ。だけど、頼りになる相棒だ」
「そう、そんなに長く。なんだか、ふしぎな感じのするカメラね」
「ああ、その通り。どこもいじらなくても、こいつはあらゆる困難な場面を乗り越える。こっちが情けなくなるくらいだよ。
極め付けはフィルムだ。ほら、カバーを外せないから取り出すこともできない。何万シャッターもしてるってのに、尽きることも無いんだ」
謎の多い相棒のことを、エンは私よりも理解していた。
「ウンディーネの陽炎」
「なに?」
「それの名前よ。レンズからの匂いがそう言ってる。私、鼻がきくの」
きっと冗談などでは無いのだろう。なぜか私は、彼女の言葉を疑う気にならなかった。