砂のオベリスク~第七大陸紀行~

予定外の雲








 雲行きが怪しくなり始めたのは、私が書き溜めた取材記録を整理していたときだった。


吹き込んだ不穏な風に取り乱し、窓にかじりつく私の目の前で、地平線の向こうからにじり寄る雲が、着々と星を食い尽くしていった。


「ああ、くそう! 月が頼りだってのに、これじゃ何も見えない」

「雨が降る前に、その紙束をバッグに入れたらどうかしら。あまり使わない機材や、手入れ道具が入った。
それか、窓を閉めるか」


エンは、ミュシャ到達に月が欠かせないことを知っていた。その上で静謐だった。



「ずいぶん余裕たっぷりじゃないか。星天観測者たちの予報では、すぐに晴れるとでも?」

「いいえ。それどころか、青天観測者たちも晴天はありえないと言うはずね。私の鼻によれば、雨は明日の夕方まで降り続けるわ」


 このときエポ以西にかかる雲は厚く、どんなに目をこらしても、雲の波間から月が覗くなんてことは無かった。


「参ったな。いつ飛び出しゃ良いのか、見当も付かない」

「今日の飛び降りは見送りね」

「そういうわけにもいかないだろう。列車は止まらないはずだ」
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