砂のオベリスク~第七大陸紀行~
間もなく夜の帳が降り、星が瞬き始める。
列車はひたすらに北を目指し、夜空はゆっくりと西を目指した。
ほっそりとした月に照らされる砂漠。薄く輝く白い地平線に、心は自然と静かになる。
「もうすぐ月がてっぺんに来るな。どうやら雲の心配はいらないようだ。はらをくくっとかないと。しかし本当に今日で大丈夫なのかい?」
「うん、大丈夫よ。この列車に乗って、てっぺんに来る月を見るのは今日が初めてだから。もっとも、走る列車から飛び降りるにあたって、どこかの骨がイッちゃうかもしれないけれど。
……お尻も痛くなってきたし、そろそろ行きましょうか」
荷物車の窓は狭く、身体の小さなエンでさえ不自由な体勢でくぐらなければならない程だった。
万全の状態で飛び出すのはとても無理だ。
車内の床の一部がひどく濡れていることに気付いたのはエンだった。
彼女は雨漏りのしていた屋根を破ろうと言い、ためらいも無く荷物の山を這い登り始めた。
乱れた雪色の髪が、誰のものとも知れない荷物を鞭打つ。
「よいしょっ……ほら、やっぱりここの板腐ってるわ。向こうは外みたい。本当に粗末なつくりなのね。簡単に破れそう」
「本当にやるのか? 次に雨が降ったら、ここは水浸しになるな」
「そうなったら、雨漏りしない貨車が造られるだけよ」
低い音が一つ車内を揺らすと、天井の一部が粉々の木片となった。
差し込んだ月光がスポットライトのように、拳を突き上げるエンを照らした。
星空を映す金色の瞳に惹かれて、私は無意識にファインダーを覗いていた。