砂のオベリスク~第七大陸紀行~
カゲロウ〜白昼夢〜
「珊瑚を食べているわ」
「食べている? 砂漠が?」
「砂漠の下の渦の中心にいる何かが。たいした食いしん坊よ。
まさか砂漠全体に穴を空けられるわけは無いでしょうけど、できるだけ離れなくてはね」
首のしめつけが強くなる。私は、昔どこかの駅の待合室で何気なく読んだ本の一部を思い出していた。
『危険をかたわらに据えた旅を長くやるつもりの者は、ある程度、自分の命を軽んじなければなりません。
誰かを犠牲にしたり……例えば、一人でならば切り抜けられる連れ添いに無理を言って助けてもらうのは、人として罪深く恥ずべきことだからです』
よりにもよってこんなときに思い出すということは、そういうことなのだろう。
何とか生きて切り抜けたかったが、なにより、目の前の圧倒的な脅威から逃げ出したいばかりに、私はなかば自暴自棄になっていた。
「エン。さんざん助けてもらって悪いが、ここからは一人で行ってくれないか」
「いきなり怖いこと言わないで。
それじゃ、見殺しになるわ」
「でも俺が君と一緒にいると、君はひどく不自由になってしまう。
君一人なら、とっくにあの流砂から逃げきっているはずだ。
命の危険を冒させてまで、助けてもらうわけにもいかないじゃないか」