砂のオベリスク~第七大陸紀行~
泣き声の無い町
その喜びもつかの間、あるときを境に街の雰囲気が一変する。
『笑拝! 笑拝!』
街頭のスピーカーが割れんばかりの号令を上げると、
鼻を垂らした子供も、日傘を肩にかけた貴婦人も、腹をかかえて笑い声を上げた。
追い追われる警官と泥棒も、葬送の行進も、意識の無い怪我人も、病人も……。
笑うこと以外のいっさいを忘れて身をよじる。
感じたのは底意地の悪い寒気だった。
人々の笑顔に歓喜の色は無く、途方もない恐怖から目をそむけているようにも見えた。
そう、たしかにこの一時は、恐怖が街を支配していた。
毒素を撒き散らすように、スピーカーは歌う。
『涙の無い国!
泣き声の無い国!
楽園は涙の無い国にこそ
憑臨なされるぞ!
笑えや笑えっ!
ヒヒヒヒヒっ!
ケラケラケラゲラゲラ……』