規則の守護者
男が、さらに近付いてくる。


「な、兄ちゃん。
今日はもう家に帰」


茜は、銃を構え直した。

撃つためではない。
負けないためだ。


「銃を置いて下さい。

あなた達はその銃で、何をするつもりなんですか」


茜が逃げ出すと思っていたのだろう、距離を詰めていた男は眉をひそめた。

その様子を感じ取ったのか、それまで傍観していた、最年長の男が前へ出てくる。

最年長の男は、緩慢な動作で中年の男の肩へ手を置くと、無言で後ろへ下がらせた。

そうして最年長の男は、おもむろに口を開く。


「銃の、使い道かい。

まあ自分で使うこともあるがな、大抵は売却用だな。

ここいらじゃ、銃は滅多に手に入らねえ。

だから良い値で売れる」


今回もそうさ、と、面白くもなさそうに男は言う。

まるで愚痴をこぼしているようだと、茜は思った。


「あなたが使っても、使わなくても。

銃が凶器で、人を傷付ける物だということは変わりません。

そんな物を、あなた達に持たせるわけにはいきません」


ふむ、と、男はあごへ手を当てた。

そのままじっと、探るように、茜の目を覗いているようでもある。


「もう、銃を下ろしてもいいんじゃないかい」


男の一言に、茜は素直に銃を下ろした。

もう、銃がなくても気圧されない。

男は、眠そうな目で、ゆっくりとつぶやいた。


「あんたに銃は、似合わないよ。

そうやって、話をするほうが、ずっと向いている」



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