神の森

「ゆうり、ありがとう。きれいだね。

 ばあや、ゆうりがおはなをくれたよ」


光祐は、祐里から差し出された桜の花を受け取り、

嬉しくて紫乃に掲げて見せた。


 小夜と紫乃は、二人で顔を見合わせた。


 紫乃は、小夜から祐里の右手が握られたままで心配していると

聞いていた。

 その右手が一年経って、ようやく開いたのだった。

 それも不思議なことに満開の桜の花を握っていたらしい。


「ほんとうに綺麗な桜のお花でございますね」

 紫乃は、光祐に笑顔で相槌を打ち、

桜の花を光祐の上着の胸ポケットに差し入れた。


 小夜は、祐里の側に走り寄り、開かれた右手に触れて、

涙ながらに祐里を抱きしめて喜んだ。


 祐里は、小夜から抱きしめられ、きょとんとしていた。


 それから、何事もなかったかのように、右手を自由に使って、

光祐と仲良く積み木遊びを楽しんでいた。

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