誰よりも愛する君へ
そんなある日、美加は生徒会で忙しいということでアタシは珍しいく一人で帰ることになった。


静かな帰り道。
いつもなら夕日で真っ赤に染まる住宅街の坂道も今日は空を覆う黒い雲のせいでアスファルトの黒色がはっきり見える。

そんな時。
アタシの頬に冷たい滴が落ちた。

滴がぽつぽつと数を増しながら落ちてくる。

黒い地面にできる水玉模様。

アタシは雨宿りする為にコンビニの幅のない屋根の下に入った。

靴の先を濡らす斜めぶりの雨。

「傘持ってくればよかったなぁ」

雨はザアザアと音を立てながらゆっくりアタシの足場を奪って行く。

「ねぇ、君、誰か待ってるの?」

背後から掛かった声に少しびっくりしながらも「優斗かも」なんて淡い期待を胸に抱き、振り返る。


アタシの淡い期待はいとも簡単に砕け散った。

残念ながらそこに居たのは優斗なんかじゃなくて、いかにもギャル男って感じの男性だった。

「・・・。」

「あれぇ〜?無視ぃ〜?」
ギャル男はアタシの顔を覗きながら話掛けてくる。

アタシが凄く怪訝そうな顔をしたってそんなのまるで無視。

ギャル男の手がアタシの手首を掴む。

「・・・やめて・・下さい」

「んー?何て言ったの?」
聞こえているくせにわざとらしく聞き直す。

アタシがもう一度言おうとしたその時、

「やめてって言ったんだよ」

背後から聞こえる低い声。
「俺の女に手ぇ出してんじゃねぇーぞ」

湿った風がしっとりと運ぶアタシの大好きな匂い。

ギャル男はチッと舌を鳴らすと静かに雨の中に去って行った。

改めて振り返る。
そこに居たのはギャル男なんかじゃなくて、本物の優斗だった。

思わず口元が綻んだ。

「優斗!ありがと!」

そんなアタシとは反対に優斗は不機嫌だった。

「早く車乗れ」

表情ひとつ変わらない優斗だけど、優斗の声からは優斗がどれだけ怒っているのかが伝わった。

「あ・・うん」
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