誰よりも愛する君へ
捺くんの家に着くまで美加のテンションは異常だった。
通りかかるおばあさんに「さようなら」なんて言ったり、アタシの死ぬ程寒いダジャレを腹を抱えて笑ったり、最終的に捺くんの家に着く頃にはすっかり太陽は地平線の彼方に沈んでいた。

アタシが弱々しく捺くんの部屋のインターホンを押すと中から勢いよく捺くんが出て来た。

「遅かったね。何かあった?ってか、美加は?」

「あなた様のかわいいペットが暴れ狂いまして・・・。アパートのゴミ捨て場に捨ててまいりました」

「アハハ。マジで?美加そんなにやばかった?」

「やばいどころじゃないよ。一緒に居るアタシが恥ずかしいかったし」

アタシがちょっとすねたように頬っぺたを膨らますと捺くんは「ゴメン。ゴメン。」と言ってアタシをなだめた。

「じゃあ、俺、かわいい子猫迎えに行ってくるわ。ハルは家の中入ってて」

「分かった。気をつけてね。見た目はかわいいけど狂暴だから」

「了解!」

捺くんはエレベーターに向かって足早に歩いて行った。
アタシは捺くんがエレベーターに乗ったのを確認すると家の中に入った。

つきっぱなしのテレビからは最近人気の女優がむさ苦しい程の笑顔で好きなタイプの男性について語っていた。

「優しいくてぇ〜、カッコイイぃ〜ハンサムなぁ〜男性がぁ〜いいなぁ〜。」

やたらと谷間を強調したワンピースに口先だけの甘ったるい声が静かな部屋に重々しく響き渡っていた。

そんな重々しい空気を吹き飛ばすようにに勢いよく鳴ったチャイムにアタシはびっくりして握っていたリモコンを落としてしまった。
「はーいはい。ちょっと待って。」

そう言いながらアタシはドアを開けた。

でもそこに立っていたのは捺くんでも美加でもなくて・・・。

「あんた誰?」

黒い服を着た長身の男。メッシュのはいった髪を無造作にセットしている。驚くほどに整った顔立ち。

ついつい見とれているとエレベーターの方から声がした。

「優斗!何しとるん?」

「捺」

知り合い??

「はよ、中入って飲もや」
「あぁ」

そういって捺くんはみんなを部屋の中に押し込んだ。
捺くんはみんなをリビングの机の回りに座らせると、ゴホンと咳をした。
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