奥さんに、片想い



 絶対に奥手そうな体育会系の大男。簡単に言うと、熊系? 太ってはいないけど、背が高くて大きいからどーしても熊にみえる。

 そういうスマートそうじゃない男が、すらすらと女を褒めるのが意外で千夏は仰天。調子が狂いっぱなし。

 いや、いや。こんな簡単にほだされるものか。
 こっちは恋でたくさん痛い目にあっているんだから。

 それに……どんなに嬉しくても。素直な彼にそこまで良く言われても、それは『嬉しい止まり』でしかない。何故なら千夏は……今の女としての千夏は……。

「有り難う。素直に嬉しいわ。でもね、今……そう言う気分じゃないの。わかるでしょ。私が本部法人コンサル室に来たのはどうしてか。私は今、仕事で頭がいっぱいで、それに没頭したいし、これが今、一番やりたいことなの」
 だからもう、女として構わないで――。遠回しに断ったつもりだった。

 もし彼と真剣に向き合おうとしても、今の千夏は佐川課長の側で彼と一緒に仕事をして、なによりも彼の役に立ちたい。

 それがいま女として一番やりたいこと。

 だから彼とは向き合えない。

 不倫を毛嫌いしてきた自分の正義感を絶対的自信にして、単なる噂でしかないのにそれを逆手に取って彼の妻を傷つけたこともあるのに……。

 まさかその傷つけた女の夫に惚れてしまうだなんて本当に皮肉で滑稽、そして酷く罪深いこと。

 ――だから、黙って押し殺して。自分に出来ることでこの気持ちを昇華していくしかない。

 そんな恋仕方しか出来なくても苦しくても、それをしていきたい。
 それにこんな素直な彼を巻き込みたくない。
 自分の寂しさを埋めるために、その時だけの相手として都合良く扱いたくない。彼がいい人だってわかっているからこそ。

 そんな千夏だけの密かな思い。
 それをひた隠しにして、彼にはそられしい理由で諦めてもらおう――と、思ったのに。




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