亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
ゲイン家に伝わる、由緒ある剣。ゲイン家の紋章が刻まれたそれは、大事な、大事な物。
その家の頂点に立つ者だけが、握ることを許される。
(………あの夜に散々…引き摺ってしまったがな………)
あれから、一度も抜いたことがない。
心中で亡き父に詫び、歯を食いしばってこちらを見下ろしてくるイヨルゴスに切っ先を向けた。
この冷たい夜気が漂う寒空で。
一瞬だけ……。
暖かい風が、頬を撫でた。
………本の一瞬だった。
キーツは反射的に、振り返った。
何も、無い。
荒野が果てしなく続く、この戦場。
「――――………父上…?」
後ろに、父の気配がしたのだ。
威厳ある、寡黙な父の……。
「―――…キーツ様!!」
アレクセイの叫び声で、我に返ったキーツは振り返り様に剣を横薙ぎに払った。
キーツを叩き潰そうと振り下ろされた巨大な手。
その鋼の様な固い肌に、鋭い一閃が放たれた。
小さな突風が吹いたかと思えば………青白い親指と人差し指が、血飛沫と共に根元からズルリと落ちた。
真っ黒な曇り空に向かって、怪物は痛みのためか、狂気のせいか、耳を劈く様な凄まじい咆哮を上げた。
上空から、フェーラの姿のリストが傍らに飛び下りてきた。
ブンッ、と横に振られた巨大な拳を交わし、二人は距離を取る。
「………駄目です。魔術を吹き込んでも最初から狂っているから……」