亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………グラッゾ隊長…呪いがどうとかって言ってたけど……………まぁとにかく少し楽になったってことかな。……………………………相変わらずあっちは騒がしいみたいだけどね…」
擦り切れた隊服の裾を軽くはたき、ダリルは剣を腰の鞘に戻した。
振り返った先は、一向にくたばる気配の無い…この地響きの元凶。
「…………苦戦してるね…僕らが離れたせいもあるけど……」
「……あの辺りだけ血の臭いが凄いよ……臭い。………お兄さん、怪我してるみたい……。………………………………あの化け物もかなり弱ってるみたいだよ―?」
「………イブは背後に回って。あの後ろパッツンと喧嘩しないでね。僕は前から行くから…」
上空に上がる砂煙の中に、青白いイヨルゴスの身体がチラチラと見えた。
「………うーん…もうすぐ朝になるみたい。暗い内に殺らないと“闇溶け”出来ないよ―…………さっさと終わらせ…………………」
口を尖らせてブーブー呟いていたイブが、突然、パッと顔を上げた。
………イブが黙りこくるなんて、珍しい。
彼女は目を瞑ってクンッと鼻を利かせ、そして。
再び表に現れた瞳は、これ以上無い程輝いていた。
「…………イブ…?」
「…………い…だ」
「………」
…首を傾げるダリルを放って、イブは荒野を走り出した。
無邪気な子供の笑顔を振り撒いて、少女は死臭に塗れた焦げ臭い戦場を駆けて行く。
「……匂いがする!!」
イブは歓喜の声を上げた。
「―――隊長の匂いがするの!!」