亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
兵士達は何とか進ませまいと頭上に向かって剣を振りかざすが、トゥラは速度を落とすこと無く、刃の上をも踏み台にしていく。
「―――…襲ってもこないなんて…なんだあいつ……!………丘に向かってるぞ!」
この獣の目的は丘の上の城のみ。
たかが犬一匹………行かせてなるものか。
「―――ワイオーンを呼べ!犬には犬だ!あのライマンを襲わせるんだ!」
兵士の一人が口笛を吹くと、死体を貪っていたワイオーンが一斉に顔を上げる。
兵士の列を物凄い勢いで駆け抜けていくトゥラを目にした途端、数十匹が同時に後を追い始めた。
赤い体毛を逆立てたワイオーンは兵士達の間をすりぬけていく。
分身の中に溶け込んでいるトウェインは、後から疾走してくるワイオーンの群れを見て危機を感じた。
………トゥラが…あんなに多い群れから逃げれる訳が無い…。
トウェインは意識だけの思念伝達で、トゥラに呼び掛けた。
―――…トゥラ………もういい!後は何とかして城に行く。……このままだと追いつかれる…。………お前はお逃げ…!
聞こえている筈だ。……だがトゥラは、初めて主人の命令を無視した。
黙々と分身を導いて、丘の上を目指す。
―――………止めてくれ……もういいんだ!