亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「…そっちはどうだ?……人影らしいのは………」
「………いや、今の所無ぇよ。………はぁ…とんでもねぇ事になったな…」
「………ま、いつかはこうなると思ってたさ……しかしまぁ……まさか国家騎士団様がクーデターとはな……なんでも、騎士団の中の泣く子も黙る先鋭部隊が起こしたらしいぜ……」
「この国も終わりだな……」
「ああ。………イブ、人間に化けて外にいろ」
真っ黒な髪の奴、通称アベレットは、ナイフを手元でくるくると回しながら言った。
「………何で?」
この頃になると、ほぼ人間の言葉を話せるようになっていた。
気がつけば五年の歳月が流れていた。
……生まれた時と身長は変わらないけど。
アベレットは咥えていた煙草をビシッと投げ付けてきた。
赤々と燃える小さな火が、頬を掠めた。
「何ででもだ………いいから早く行け!後から指示は出す!」
………アベレットはいつになく不機嫌だ。
昨日からおかしい。アベレットだけでなく………街全体がおかしい。
大きな荷物と子供を馬車に乗せて闇夜に消えて行った人間が、一体何人いたか。
………嫌な空気。
張り詰めていて、息がし辛い。