亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
指示通り人間に化けて、服を着た。

昔アベレットがくれた古着だ。人間に化ける時は必ずこれを着ている。



すっかり慣れてしまった二足歩行。
ブーツを履いても転ぶことは無くなった。



その決まったスタイルで一人、外に出た。




街は静かだった。


がやがやと賑わうパブや熱を込めて独り語る詩人、噴水の前にいる踊り子、駆け抜ける子供と馬車。




………何も聞こえない。

………なんて………寂しい所。







街の門の前で佇んでいると、小さな音が奥から聞こえてきた。




足音。








………子供の足音だ。
それも弱っている。








暗闇の向こうから、小さな人影が見えた。

同じ位の背丈。







………少年だ。


衣服はぼろぼろで、髪は少し焼けている。

疲れきってやつれた顔が、こっちを見た。


………助けて。




動かない唇がそう言いたげに震えていた。






「………谷沿いの村から来たのか…?………戦火と影がダブルで来たんだろ……」

「………子供か……何も持って無いようだな…」

「………助けてやりたいのは山々なんだが…こっちだって食料を守らねぇといけねぇ…」
アベレットは口笛を吹いた。
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