亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
…耳を疑った。


口笛?


……これは殺す事を意味している。

……「殺れ」の合図。


目の前の少年はふらふらと歩んで来た。
手を伸ばし、イブに助けを求める。



………何故殺す?

だってこれは……犬でもフェーラでもない。………人間だ。

何も出来ない…死にかけの……子供だ。


呆然としていると、また口笛が聞こえた。

……アベレットが怒る。

怒ったアベレットは好きじゃない。

でも………食べるためでもない、売る訳でもない人間を殺すなど。


………アベレット………この子は貴方と同じ同族だよ。






………意味も無く仲間を殺すのは止めてよ。






そりゃあ……あたしだって同族を殺した。いっぱい殺した。食べた。


………本当はね、嫌だったよ。







嫌だったけど………アベレットが褒めてくれたから………頑張ったよ……。












アベレットまで………そんなことしないで。





悲しいことしないで。











―――ドスッ。






止めようと思えば出来た。

けど、眺めるしか出来なかった。




少年の額には、ボウガンの矢が刺さっていた。


………音も無く、この子は倒れた。


同族の手によって。
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