亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――ゲイン侯爵……よくぞいらっしゃいました。息災の様ですわね」

「はっ」と父は頭を深く下げた。

キーツも慌ててお辞儀をした。


「………そこにおられるのは…侯爵の…?」

マリンブルーの瞳がキーツをとらえた。

………思わず息を呑んだ。


「……そう固くならなくとも良いのですよ。………頭を上げなさい」

手に汗を握り、キーツはゆっくりと顔を上げた。


「………あら…あまり似てないわね。母親似ね。綺麗な目鼻立ちをしているわ…それに利発そう」

「……仕様の無い好奇心旺盛な子でして…」

「好奇心とは良い成長材料ですよ、侯爵。姫君も皆お転婆で困りますわ」

フフフ、と上品なか細い微笑を浮かべ、女王は改めてキーツに顔を向けた。

「お名乗りなさい。貴方の名前は存じていますが、貴方の口から直接聞きたいわ」

変な汗が流れた。
緊張しているのか、後ろで組んだ両手の指先が震えている。



「………第三貴族…ゲイン侯爵家の長男であります……キーツ=ファネル=ゲインです」

びしばしと鍛えられた礼儀作法やマナーはこの日のためにあったのか…。



改めて、家庭教師の有り難みが分かった。



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