亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――花畑で会った少女は、なんだか真の通った凛とした娘で、気が強くて……しかしその雰囲気は気品に満ちていて、大人びていて…………………………………。
………とても、美しい人だった。
少女に対して美しいだなんて、少し言葉の選別が間違っている気もしたが…。少なくともキーツの目には、少女はそれほど輝いて見えた。
恭しくお辞儀をした少女、ローアン。
………キーツは訳も無く、ローアンと話をしたくて仕方無かった。何か話そうと口を動かすが、何も出て来ない。
自分はどうしたのだろうか。
ついさっきまでそんな事は無かったのに、耳障りなほど、胸が高鳴っている。
しかし、そんな必死なキーツの意に反して、ローアンは突然卵を花畑の中央に置き、踵を返して城の方へ走って行った。
「………あ…」
不意を突かれたキーツは、ただ見送る事しか出来なかった。
小さな背中が、更に小さくなっていき、すぐに消えた。
――………ローアン=ヴァルネーゼ………。
何度も何度も復唱する。
心地良い響きに思えた。