亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

「何かしらね?侯爵家か伯爵家の方かしら?」

エルシアは小首を傾げた。リネットはフフッとなんだか黒い笑みを浮かべる。

「………エルシア姉様……分かりませんの?あれは……お母様の差し金ですわ…」

「差し金!?」

意味も無くエルシアは、ややオーバーしがちな驚きを見せた。

「ええ、間違いなく………あれはローアンへの差し金。エルシア姉様同様、早々に婚約者を決めてしまおうという魂胆!……ああ…お母様の毒牙にかかった姉様は本に哀れですわ…」

エルシアは困った様な微笑を浮かべた。

「……毒牙…。そんな事無いわ。オーウェン様はとても素敵な方よ?」

「何をおっしゃいますの?………あの紳士面した男こそ曲者ですわ……猫被り男……会ってたったの二週間で…姉様に婚約を申し入れるなんて………!なんて手の早い!」

リネットはわなわなと身を震わせ、手摺に爪を立ててバンバンと叩いた。

エルシアはその様子を何故かほほ笑ましく見ていた。

「リネットは本当に嫌いなのね、殿方が。………」

同じ様に、リネットにも所謂“差し金”が向けられた事があったが………。

「金輪際近寄らないで下さいな。……嫌なら私の手でその口裂いて差し上げますわ」

と、追払った。
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