亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
当時七つだった少女が言ったのだ。

言葉の意味も含めてインパクト大に違いなかっただろう。

再度入口を見下ろしてみると、“差し金”と思われる少年は、初老の男に説教をくらっていた。



「……お姉様…」

ふと、二人の背後から小さな声が聞こえてきた。

振り返ると、赤いドレスの少女が歩み寄って来ていた。

「あら、ローアン……卵はどう?まだ孵らないかしら?」

ローアンは細い顎を小さく動かす。

「……まだですわ。聖獣の卵は綺麗な空気のある場所に無いと孵らないのでしょう?……だから花畑に置いてますわ」

エルシアはこの小さな妹を愛しげに撫でた。

そんなローアンにリネットは近くに来る様に目で合図してきた。

「何ですの?………また殿方の難点について教えて下さるのですか?」

……5歳の幼子に何を吹き込んでいるのか。
エルシアは溜め息を吐いた。

リネットは階下の説教されている少年を指差した。

「………いいことローアン……あれが今度は貴女への差し金よ………よくよく注意しなさいな…」

ローアンは手摺の隙間から階下を見下ろした。

「あら………ついさっき会った方ですわ」

ローアンがそう呟いた途端、リネットの目が光った。
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