亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

「………何ですって?」

「先ほど、裏の花畑で会いましたの。………キーツ=ファネル=ゲインとかいう方でしたわ。侯爵家の方ですのよ」

リネットの背後に黒い後光がさしていた。手摺を掴む細い指が震えている。

「………なんて手の早い…!!とんちんかんに見えて意外とその手ではテクニシャンでしたのね!」

「………テクニ…?」

ローアンは無表情で首を傾げた。

「……ローアン、男なんてのは皆ヘタレですからね………ヘタレよヘタレ!」

「………ヘタレ…」


半ヒステリックに陥ったリネットが騒ぐ中、ローアンはまた階下を見下ろした。




説教をしている初老の男が、ローアンに気付いた。


うなだれていたキーツはぱっとこちらを見上げた。







互いの視線が重なった。

キーツはじっとローアンを見詰め、やや赤くなった。




………殿方は…ヘタレ。………では彼もヘタレ?

そんな事を思いながら、ローアンは小さく手を振った。




………リネットに引き戻された。




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