亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
横になっていても、眠れない。
古いベッドの上で上半身を起こした。

手を伸ばし、側にある蝋燭に火を灯す。

暗闇の中で、ぼんやりと自分の手足が視界に入った。


投げ出した重いブーツに足を突っ込み、皺だらけの真っ白なブラウスに腕を通し、軍服の上着を軽く羽織った。
ふと気がつくと、金髪の髪が胸元まで垂れていた。
いつも帽子で隠しているため、周りはあまり気がつかないが、トウェインは髪が長かった。

………ベッドでゴロゴロしている際に解けてしまったらしい。

長い髪を無造作に掴み、後でまとめて、帽子の中に入れた。


女だと見られたくないがために、隠している。

ならばいっその事、短く切ってしまえば良い。


だが………。







「………」







切りたくない理由がある。
どうでもいい事なのだが………なんだか、切りたくないのだ。







ちらりと時計に目をやると、もう夜中だった。
……考え事をしていると、時を忘れてしまう。


今夜の見回りは第1部隊。第2は訓練中。第3と第4は、暇だ。






…………たまには行ってみるか。




足下で寝息をたてるトゥラをそっと撫で、部屋を後にした。

鍵を閉める必要は無い。ちゃんと番犬がいるのだから。

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