亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
くるりと踵を返し、元来た獣道に向き直った。
………冷たい空気の中。
………………僅かだが………妙な異臭が鼻先を掠めた。
焦げ臭い様な……焼けただれた様な…………ツンとする……。
―――ベチャッ…。
……すぐ前の方。木から何かが落ちてきた。
………生き物?
ずるずると這う様な音が聞こえる。
……嫌な感じだ。ダリルは感覚を研ぎ澄ませた。
一度も光を受け入れたことの無い真っ暗な視界。
その中央に、ぼんやりと形が浮かび上がった。
切り取った様に浮き彫りになる対象物。それは徐々に細部まで明確になり、色付いていく。
目が見えなければ分かる筈の無い形状や色彩。盲目という障害は、ダリルの特殊な能力の前では障害でもなんでもない。
………真っ黒。
………蠢いている。
……………中央に…………赤いのが見え…。
機敏に動く、赤い菱形の目玉。
それが見えた途端、目の前にいる不可解な生き物が何であるか、すぐに理解した。
実際にこんな間近で見るのは初めてだった。
………影。