亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
………静かに後退した。
草をゆっくりと、磨り減った靴底で踏み締める。
………形の曖昧な黒の生き物は、赤い焦点をダリルに合わせ、ドロドロとした身体を引き摺って寄って来た。
………獲物を見る目だ。
『―――……ハアアアアアアアアア……』
不気味な重低音の鳴き声が木霊する。
目玉の下が横一文字に裂け、そこから何重もの不並びな歯が覗いた。
粘着質な黒い唾液が滴り落ちる。
大人達を呼ぼう。
このままでは追い詰められ、餌食になるのは確実だろう。
………助けを呼ばなければ。
今は何も見えない夜。村まで少し距離がある。声を上げても、誰の耳にも届かない。
………どうやって?
どうやって助けを…。
(…………お母さん…)
……一瞬だけ母の姿を思い浮かべ、意を決してダリルは。
………細い獣道を走った。
つい今し方のんびりと歩いていた小道を、今は逆方向に向かっていた。
走り出すや否や、すぐ後ろで影は反応した。
標的のダリルを追いかける影は、身体の到るところから黒い手足を生やし、意外にも俊敏な動きで後を追って来た。
草をゆっくりと、磨り減った靴底で踏み締める。
………形の曖昧な黒の生き物は、赤い焦点をダリルに合わせ、ドロドロとした身体を引き摺って寄って来た。
………獲物を見る目だ。
『―――……ハアアアアアアアアア……』
不気味な重低音の鳴き声が木霊する。
目玉の下が横一文字に裂け、そこから何重もの不並びな歯が覗いた。
粘着質な黒い唾液が滴り落ちる。
大人達を呼ぼう。
このままでは追い詰められ、餌食になるのは確実だろう。
………助けを呼ばなければ。
今は何も見えない夜。村まで少し距離がある。声を上げても、誰の耳にも届かない。
………どうやって?
どうやって助けを…。
(…………お母さん…)
……一瞬だけ母の姿を思い浮かべ、意を決してダリルは。
………細い獣道を走った。
つい今し方のんびりと歩いていた小道を、今は逆方向に向かっていた。
走り出すや否や、すぐ後ろで影は反応した。
標的のダリルを追いかける影は、身体の到るところから黒い手足を生やし、意外にも俊敏な動きで後を追って来た。