亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
真っ黒な大小の細長い手や足。
グチャグチャと気味の悪い音は、どんなに走ってもすぐ後ろから離れようとしない。
(………っ……!)
知り尽くした道。
水気を含んだ足場の悪い地面を飛び越えようとした時、脇の茂みから野鼠が飛び出して来た。
………足を滑らせた。
足首に、鈍い痛みが浸透する。
泥だらけになった身体を起こそうとしたが、一瞬でぎこちなくなってしまった足は身体を支えられそうになかった。
…………背後で、深い息遣いが聞こえた。
すぐ側で獲物を見つめる死神の視線。
浴び続けるのは恐怖以外何物でも無い。
「……………来るな」
声は震えていた。
ああ、どうして自分はこんなに愚かなのだろう。
…………馬鹿なんだろう。
生臭い吐息が全身に降り懸かる。牙が並んだ赤黒い口が、ゆっくりと小さなダリルを包もうと構えていた。
…………恐怖が滲み出る。
しかしそれは………………自分への恐怖だった。
俯いたまま、ダリルは震える声で呟いた。
「―――――……来ない方が………いい……!」
グチャグチャと気味の悪い音は、どんなに走ってもすぐ後ろから離れようとしない。
(………っ……!)
知り尽くした道。
水気を含んだ足場の悪い地面を飛び越えようとした時、脇の茂みから野鼠が飛び出して来た。
………足を滑らせた。
足首に、鈍い痛みが浸透する。
泥だらけになった身体を起こそうとしたが、一瞬でぎこちなくなってしまった足は身体を支えられそうになかった。
…………背後で、深い息遣いが聞こえた。
すぐ側で獲物を見つめる死神の視線。
浴び続けるのは恐怖以外何物でも無い。
「……………来るな」
声は震えていた。
ああ、どうして自分はこんなに愚かなのだろう。
…………馬鹿なんだろう。
生臭い吐息が全身に降り懸かる。牙が並んだ赤黒い口が、ゆっくりと小さなダリルを包もうと構えていた。
…………恐怖が滲み出る。
しかしそれは………………自分への恐怖だった。
俯いたまま、ダリルは震える声で呟いた。
「―――――……来ない方が………いい……!」