亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
村の外に通じる細長い道。
そこに小さな馬車が止まっていた。
傍らには村長の姿も見えた。
ここに来るまで男の手に噛み付いたり引っ掻いたりしたが、男はダリルを放そうとはしなかった。
馬車の周りに人が集まり始めていた。
「………こいつがダリル=メイで………間違いないな?」
「………ああ」
ダリルを一瞥し、男は村長に確認をとる。
………村長はこちらに見向きもしなかった。
「…………それじゃ約束通り……金は払った」
「…………」
男は冷たい眼で見下ろし、グッとダリルを引っ張った。
「…………もらっていく」
…………。
……………もらって…?
…………僕は……。
―――ダリルは男の手を振り払おうと、必死で抵抗した。
髪を振り乱し、男の手に爪を、歯を食い込ませる。
…………売られる……!
「………嫌だ………嫌だ!止めろ!僕は………!………村長!!」
助けを求めたが、村長は目を合わせようともしない。