亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
母はダリルの髪を優しく撫でる。


「………何も………何もしてないわ………貴方は……」


村人の誰かが母とダリルを引き離した。

ダリルは泣き叫んだ。

「………嫌だ!!お母さんと離れたくない!!お願いだから……!独りは嫌だ!!嫌だ!!………お母さん!!お母さん!!お母さん!!………お母さ…ん!!」


使い物にならない眼から温い涙が溢れる。

僕は……………何もしていない。

どうして皆……僕を嫌う?

おかしいから?

不気味だから?




普通じゃないから?










「………お母…さん!………嫌だ………母さ…ん…!!」


離されていく親子。

遠くへ。人込みの中へ消えていく母。


ダリルは手を伸ばした。







華奢な母の手。針仕事で荒れた細い指先。




一番…大好きな…………愛しい………。








ダリルの手が、ほんの少しだけ母の白い手に触れた。


ひんやりとした、冷たい手。




「………お母…さ………ん…………………………」



























―――その瞬間。





―――………ダリルの真っ黒な視界に…………何かが流れ込んで来た。



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