亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
…………。
…………男に手を引かれるまま…………素直に後退した。
涙が頬を流れた跡は、既に乾いていた。
『…………泣かないで、ダリル』
幼い頃の母の言葉が木霊する。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
何も考えたくない。
高い馬車の上から、ダリルは闇を見下ろしていた。
そう。
自分は…思っていた以上に……。
…………独りだったようだ。
この時程………自分のこの能力を恨んだことは無かった。
母の姿も、何も見えない。
『優しい母』の声が、止まない。
『………ねぇ、ダリル………泣かないで』
泣かないで