亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


それは突然。

何の予兆も無く、何の音も気配も無く、ただそこに現れた。



真っ白なぼろ衣で身体を覆った、長身のシルエット。


風も無いのに、長い衣の裾は妖しく揺らめく。
ぼんやりと佇むその姿は正体不明で、衣の下の顔など見えない。

………不意にそれは………塔内の長い回廊を歩み出した。

………よく見るとその長い衣の下に、ある筈の足が無い。
ゆっくりと、平行移動する。
前へ進む度に、揺らめく衣から小さな白い蛍火が漂った。




「―――…気味が悪い!」

「………隊長には報せてあるのか?」

「まだだ。今からすぐに報告しに行くが………しかし何て説明すれば良い………幽霊が出たとでも言うか?」


ふっとわき出た異例の事態に、訳も分からず、何かあった時のために一定の距離を保ち、しかし見ているしかない兵士達。

そんな彼らには目もくれず、すぅっと進んで行く真っ白なぼろ衣。


足元に、牙をむき出しにして威嚇をする魔獣ライマンが数匹構えてきたが、完全無視だ。

何匹か飛び掛かったライマンがいたが、その牙は空を切り、結局は擦り抜けてしまう。

そして何故か、牙を向けたライマンだけが、その場で泡を吹いて倒れこんでいった。

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