亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――……………………………はぁ……」
意味も無く、口端が緩く上がる。
冷たい、不気味な笑みを浮かべながら、クライブは床に剣の切っ先を何度も突き続けた。
機械的な乾いた高音が、静寂が依存する室内に鳴り響く。
(―――時も…………間近…か)
すぐ傍らで、冷たい闇がグラリと揺らいだ。煙の如く揺らめく黒い闇から、姿は無いが、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「―――………総隊長…あれが……真直ぐこちらへ向かっております………念の為、何処かへ避難を………」
「………リンクス……………………馬鹿なことを言うな………………私から久方振りの楽しみを奪う気か…………?…………………………お前は退け。客の相手は私独りで…………………充分だ………」
「―――御意」
…すぅっと、浮いていた黒煙はその場から消え失せた。
室内にはまた、クライブ一人だけとなった。
頭を軽く振り、視界を覆う長い前髪を端に寄せる。
真っ白な髪から覗く、曇りガラスの様な濁った瞳は、奥底でギラギラと妖しく光っていた。
部屋の扉は開いてもいないのに、その侵入者は突然扉の前に現れた。