亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
額の汗を拭い、身体の震えを抑えようと、拳に力を込めて手の平に爪を食い込ませた。




(………何だあれは)










丘の下方に広がる荒野。そこに色付いていた緑は幾多もの争いですっかり削られ、今は赤茶色の肌が露出している。



その大地を、ゆっくりと歩む……否、這いずって来るものがあった。




………その大きさは二メートル位。煙の様に空高く揺れ上がる黒々とした闇を纏い、ズルズルと引き摺っている。…毒々しい危険な魔力を放ちながら、それは城の明かりに導かれる様に、まっすぐこちらに向かって来ていた。

前のめりに折り曲がった身体。俯いた頭。長い長い法衣。


………それはまるで、老人の姿そのもの。一回り大きな、不気味な老人…。



(………っ……)


普通の人間よりも魔力に敏感なリストは、込み上げる吐気に耐えた。
口を押さえ、鳥肌がたつ身体を懸命に擦る。

(………気味の悪い!………負の魔力の塊じゃないか……!……あれは…化け物だ………あんなのに触れたら……)


………どうかなってしまいそうだ。

あの化け物に纏わりつく魔力は……濃ゆ過ぎる…。……存在自体が…有害でしかない。



(………何なんだ?……あんなのが何故ここに…)
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