亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
グチャ…と微かに動く度に聞こえる粘着質な音。

リストが近付くと、化け物はゆっくりとした動作で頭を上げた。

………黒い法衣に包まれた、老人の様な頭だ。

……ぼんやりと開いた口らしき穴から、しわがれた老人の低い唸り声が流れた。





『………何処に……』

………リストは眉をひそめた。

「…………喋れるのか?」

『…………いず……こ…………に……………何処に………おられ……まする……か』


………?

奇妙なことを何度も繰り返し口にしている。……もう暴れる気配は無い。すぐ側まで近寄り、リストは耳を澄ませた。







『……………何処に………………………………………王よ……』





「―――大丈夫か、リスト」

ハッとリストは背後からの声に振り返った。
たった今、丘の上から降りてきたらしい。
鞘から剣を抜いたキーツが後ろに立っていた。

「……はい。大丈夫です。御心配には及びません。………まだ生きていますが……もうあまり動けない様です……」

「………結局のところ、これが何なのか分からずじまいだな。……あちらから放たれた刺客には違いないが………力はさほど無い。………意味のある捨て駒か?……………リスト、そこを退け」
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