亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
苛立ちながら丘の上に槍をぶん投げ、リストは改めて化け物に向き直る。
化け物はグラグラと揺れていた。
身体から立ち上ぼる黒い蒸気の様なもの。体内で渦巻く負の魔力が濃ゆ過ぎる故に見えるものだ。
………先程よりも魔力が増している。
「………やはり、あちらからの刺客か。………どうやら、何処かから操っているらしいな。“闇溶け”の気配が現れて、突然豹変したからな………」
すぐ隣りでぼんやりと化け物を見上げながらキーツは言った。
キーツはゆっくりと剣を片手で握り直した。
「面倒事は嫌いだ。更に凶暴化されると困るからな。………後は俺がやる。………すぐに終わらせるぞ。……皆、少し離れろ…」
総団長であるキーツ自らが前に出た。
化け物を取り囲んでいた兵士も、リストも、皆無言でその場から素早く離れた。
………巻き込まれては一溜まりも無いからだ。
キーツはゆっくりと、化け物に歩み寄った。
…キーツは無表情のままだ。
まるで、この化け物を前に恐怖は愚か、何も思っていないかの様な……。
…………そう。… 思っていないのだろう。…何も。
「………派手な現れ方とは裏腹に、終わりはあっけない………捨て駒だったな。………三振りだ。………三振りで、終わらせる」