亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――………目を閉じると……、今は何も無いその風景に、朧気で霞みがかったシルエットが幾つも浮かび上がる。
………この長い螺旋階段の上から、大慌てで朝の支度をするべく駆け降りて来る使用人達。
皆、私を見るや否や、深々と頭を下げていくのだ。
―――…おはよう御座います。
―――…お早いお目覚めですね。
―――…ルアのお散歩で御座いますか?
―――…あまり城から抜け出してはなりませんよ。姫様の隠れ家がこの塔であることなど、陛下も御存じですのよ。
―――…ローアン様、お手紙が…。
―――…ローアン様。
―――…ローアン様。
…懐かしい、優しい笑みを見せて、皆………消えていく。
皆、私と擦れ違っていく。
振り返っても、もう誰もいない。
………皆………………死んだ。
あの頃は、あの日々は………殺された。
スッと目を開けると、七色のステンドグラスから漏れる、淡い朝日が瞳を照らした。
………自分を……ローアンを認めてから、早一週間。
日が経つのは早い。
私を取り巻く環境も、随分と変わった。
「……おや、ローアン様。お早いお目覚めで」