亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
本気で逃げようと足掻くローアンの反応が面白くて仕方無かったオーウェンだが。


……………………黒々とした凄まじい殺気が自分に直射している事に、今気付いた。


……ちらり…と、その出所に目を移すと。





………………もうとっくに磨き終わった筈の剣を、何度も何度も何度も何度も、しかも物凄い速さで磨いているキーツが………瞳孔が開ききった末恐ろしい邪悪な視線を、射ぬく勢いでこちらを睨んでいた……。


…………何だあの有り得ない殺気は。


その隣りにいるリストは恐怖でガクガク震えているではないか。罪の無い子まで、可哀相に。


本能的に、あ、やばいね、と感じたオーウェンはパッとローアンを解放した。



………殺気は、薄らぐ気配が無い。

「……はぁ……はぁ……貴様………殺す気か!!」

肩で息をしながら抗議するローアン。
しかしオーウェンはそれどころではない。

「殺す気なんてとんでもな~い。それより俺の方が殺されそうだ…」

オーウェンはアレクセイの後ろにそっと隠れた。

「……………男の嫉妬は醜いですぞ、キーツ様」

…そこはやはりお世話係。恐ろしいオーラ全開のキーツにも慣れた様子で、やんわりとアレクセイは言った。


………アレクセイの発言にキョトン、と呆気にとられたキーツ。

その顔は見る見る内に赤くなっていく。


「…………し……嫉妬…!?……ち、違っ………」

「他の方と婚約者が一緒にいるのは、あまり良い光景ではありませんからな?……そう思われませんか、ローアン様?」

いきなり話を振られ、えっ?という表情を浮かべるローアン。

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