亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――『時』の訪れまで、二週間と迫っていた。









『―――悪魔のみ印(しるし)が見えますぞ………』

『…それも、大きな………何とも悍ましい……』

『………これが何であるのか…………』

「…………お前達の占いは、予言より当たるから怖いよ………」


貴族の塔とは反対側にある貴族の城。せのとある個室で、ローアンは暮れる夕日を眺めていた。

彼女のすぐ後ろには、ぼんやりと浮かぶ真っ白な三人の老人の幻影。
部屋中に小さな蛍火がたくさん、舞っては消えていた。


「逆に言えば……不吉な予感がしない戦があるのか?………人間の起こした勝手な振る舞いだ。……不吉など、あって当然だろう」


『………この戦が終わりを告げる時………王よ…貴女様は何を思うのか………』

「………王などと………呼ばないでくれ。……………私はその血を受け継いでいるだけで、あの玉座には相応しくない。…それに………生きているとも限らない。………その時はお前達………あの二人の…どちらかを立てよ。……元々王位継承権を持つ人間だろう?」

『………』

『………おっしゃる通りに……』

『……………御意…』





………本当は……王になる気などない。

王族であることさえ苦しくて仕方無いのに。………そんな弱い私よりも、ヴァンニ家かゲイン家の末裔の方が良いだろう。


私は、臆病だ。






生きることにも、死ぬことにも、疲れている。


………曖昧な心の拠り所が、見つからない。


























『…………おや……』







守人の一人が、声を漏らした。


「…どうした?…何か…………………………」




















ひんやりとした………冷たい空気。

身体に染み付いているこの温度。








闇だ。





…………“闇溶け”の臭いがする。



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