亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………何も………何も言ってない!!………何も………!!いいい…い、言って………!」
「…………何…て」
……名前で呼ばれたのが余程嬉しかったのか……感動に似た衝動を味わいながら、キーツはゆっくりと近寄って来た。
ローアンはただ困惑するばかりで、違う違うと連呼するばかりだ。
「……つ…つつつ、つい………ちょっと……………口が………滑って………!!」
俯いたまま頭を左右に振り、フラフラと身体がよろめく。
…途端、重心が妙な方に移り、再度バランスが崩れかけた。
「………あっ……」
ペタリ、と床に手を突くと思いきや………ローアンの身体は強い力によってグイッと思い切り引かれた。
少し驚いて蒸気した顔を上げると………キーツの顔が、目と鼻の先にあった。
「…………っ………」
…鼓動が速くなる。顔が熱い。………綺麗なオッドアイから、目が離せない。
…………近い。
ローアンの腕を掴んだ大きな手は、一向に離す気配が無かった。それどころか、まるで離すまいとでも言うかの様にしっかりと握られている。
熱っぽい視線が、容赦無く浴びせられる。
………そのまま、キーツは小さく口を開いた。
「………………もう一度…………呼んで…くれないか……?」
……ローアンはキーツを見上げたまま、口ごもった。
一瞬、誰が自分を呼んだのかと思った。
湧き上がる感動と、少しの気恥ずかしさと……………切ない胸の痛み。
気が付けば彼女を引き寄せ、夢中になって見詰めていた。
………もう一度聞きたい。
…………昔の様に。