亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
ローアンはこの時、正直に言うと立っているのがやっとの状態であり、抱き締めてくるキーツの腕が離れればすぐにでも崩れてしまいそうだった。
ぼんやりとした視界で真横を見ると、顔を埋めて動かないキーツ。
顔は分からないが、茶色の髪から覗く耳はこれ以上無い程赤く染まっていた。
………震えている?
背中に回された暖かい両腕。
心なしか、小刻みに震えている。
………首筋にかかる熱い吐息も、何だか乱れている気がする。
「―――……………………キーツ………?」
その真っ赤な耳に小さく囁くと…………。
………抱き締める腕に力が籠った。
ギュッ……と、柔らかく、壊れてしまいそうな彼女を更に密着させる。
…………覚えのある、甘い香り。
………酔ってしまいそうな…………甘い……。
「―――……………………しい……」
空気に溶け込む様な、小さな、震えた声。
ローアンは瞬きを繰り返した。
………よく…聞き取れなかった。
「…何?」と聞き返そうとした途端、切羽詰まった様な小さな声を、キーツは絞り出した。
「―――……君が…………………欲し…い………」
「…………え…」
驚きのあまり、声を漏らしてしまった。
………欲しい?欲しい…?……………………………欲し……い…………。
…………………。
………ローアンはゆっくりと、目を閉じた。
「………………あ…の…………」