亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



いつも必ず、心地良い風が吹いていた。

陽光が降り注ぐ春の昼間は、何処からか、宛も無く流れてくる木々や花の香りが、全身を撫でていた。


薄暗い雨の日は、弱まった時の、雲の隙間から差し込む何本もの淡い光の柱を数え、止んだ後の七色の虹を消えるまで眺めていた。

凍て付く冬の間は、大小様々な雪を飽きずに眺め、かじかんだ手で、結晶の小さな芸術を見て楽しむ。
積もった後の真っ白な大地を踏み締め、滑らかな白銀の冬の肌に倒れこんだ。























楽しくて仕方無い。

愛しくて仕方無い。






………ずっと一緒にいたから。

















たった独りだと、陽光は眩しいだけで、風も髪を乱すだけ。雨は憂鬱で、消えゆく虹は儚い。雪は寂しい心を更に凍らすだけで、その白さは無を感じさせる。







二人だから。






すぐ隣りに、あなたがいたから。

















あなたがいない時は、寂しさが募る。



それはもはや中毒の様で。



側にいないことなど有り得なかった。




















『約束』

















幼い頃に交わした、約束。





あの時は、まだまだ子供で、小さな戯言でしかなかったけれど。











約束だ。





守るべき、約束だ。

















あなたは………冷たい手を包んでくれた。









重ねる手は暖くて、昔と変わらない。



笑いあっていた子供の頃の、繋いだ手と、変わらない。




























互いを求めるのは、今も変わらない。
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