亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
(………今夜は……月は、出ないな……)
見上げた先の空は青空が広がっているが、浮かぶ雲は厚く、早朝よりも多い気がする。
雨でも降るのかもしれない。
水浸しの戦場は出来れば避けたいのだが。
オーウェンの視線が邪魔な鳥が舞う上空から、荒野の遥か向こう、沈黙の森の方へと移る。
………あの真っ暗な森と荒野の境目に、奴等は闇を纏って一斉に姿を現す。
………それが何とも、不気味な光景なのだ。
物言わぬ元暗殺部隊の彼等は森の地平線に沿って、剣をぶらりと垂れたまま横一列に佇んでいる。
獲物を捉える獣の様な目でこちらを凝視し、日が沈むのを……じっと………待つのだ。
辺りが暗くなるのと同時に、彼等の目は血走る。
………そんな光景をこれまで何度も見てきたが……どうも慣れない。
巨大な槍を肩に抱え、うろつくワイオーンを避けながら城門内に戻った。
城門沿いにある見張り台にゆっくりと昇り、冷たい風が容赦無く通り過ぎる最上階で、だらしなく壁に寄り掛かった。
ゴソゴソと懐に手を突っ込み、何処から入手したのか、年期の入った煙管を取り出し、火をつけて口に咥えた。
………白い煙が荒野からの風に乗って、流れていく。
―――クシュン。
足元にいたルアが、きつい煙草の臭いに思わず噎せた。
「………ここで吸うのは止めろ」
「………けちだな……………総団長命令?」
「…そう言えば止めるか?」
ルアを挟んだ隣りに佇むキーツが微笑を浮かべた。
ルアはさも嫌そうに、オーウェンに向かって低く唸った。
「………唸るなよ。………ご主人様もそのペットもけちだな―…」
オーウェンは渋々煙管の中の葉をその辺に捨てた。