亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………あと……六、七時間ってところか…」
「………冬だからな。日の入りが早い」
「……こうやってだらけるのも今の内、か……」
懐に煙管を仕舞い込み、クシャクシャとルアの頭を撫でた。
………ルアは一瞬で不思議なヘアーと化した。
「兵士達の全装備は整っているのか?」
「…言われなくても。……そりゃもうバッチリだ。ミスしたらリストと爺さんの説教地獄だからな」
「そういうお前はどうなんだ。……暇そうだな。戦闘を控えた兵士とは思えないな」
「……ふん…お互い様だろ。こんな所で独り……いや、一人と一匹で憂鬱そうに眺めやがって……」
「…………それもそうだな」
苦笑を浮かべてキーツは言った。
「―――………嬢ちゃんは……今どの辺だろうな……」
ふと、オーウェンは笑みを引っ込めた。
「…………昨日の早朝にここを出たからな。………あまり目立たぬ様に、民衆に紛れて移動しているから…一日経っているわりには、そんなに遠くには行っていない筈だ。………首都の手前位だろ」
「…………兵士数人を護衛につけて避難、か………」
「いつ敵が感付くか分からないからな」
………オーウェンは淡々と答えるキーツを一瞥し、溜め息を吐いた。
「―――………見送り……………しなくて良かったのか?」
「………」
……キーツは黙ったまま、荒野の更に向こうの果てを見詰めた。
ローアンが密かにここを発つ夜明け前。
キーツは、彼女を見送らなかった。
一言も言葉を交わさないどころか、一目も会わずに。
ローアンも別段何かする訳でも無く、空が白んできたのを合図に、城から、去って行った。