亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
重大な話の筈なのに、面倒だからと仕事を押しつけられた感じだ。………俺より八つも上なのに。

キーツは苦笑を浮かべ、寄り掛かっていた壁から身体を離した。

「…オーウェン」

「…何だ?」

塔に戻るのか、踵を返して階段を降り始めた。その後ろにルアが続いた。

視界から遠ざかって行く背中が、一言。


「あの鳥を射落とせ。目障りになってきた」

「………賛成だ」

オーウェンは肩を回し、立て掛けていた槍を掴んだ。





























「………」




……目が痛い、と反射的に右目に手を当てると。

……………刺青だらけの白い手のひらに、ベッタリと赤が付着した。

ぼんやりと見詰めていると、赤い血はあっという間蒸気と化し、汚れ一つ無い手に戻った。

………右目がよく見えない。

眼球の端が切れているのか、血が出ている様だ。
パックリと切れた眼球の溝に指の腹を滑らせると、暖かくも柔らかくもない無機質な眼球の感触が伝わってきた。




………痛い。





…………直に傷も塞がるだろう。


真っ黒なフードを深く被り直し、掴んでいた杖を床に立てた。

二メートル以上もある長い杖だ。


オークの木から削り取った杖で、先の方に緑の歪な石がめり込んでいる。

………さっきまで光っていたのに。………向こうが何もしてこないから悠々と空を飛んで見ていたら…………油断してしまった。

………あれは不意打ちだ。矢じゃなくて槍が飛んで来るなんて…。

……………心の蔵を一気に貫かれて……落ちて………………………………そこまでしか見えていない。





「………戦闘前の息抜きにされたか。……お前の魔力も、他愛ないな」

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