亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
すぐ後ろから、声変わりしていない少年の……何とも冷め切った声が聞こえた。
小さなナイフを片手に、装飾品の原材料となる赤い石を、黙々と削っている。
だだっ広いこの殺風景な部屋で、少年と少女の二人だけ。
「……………申し訳ありません」
フードの下で少女は口を開いた。
再度杖を握り直し、魔術を発動させようとした途端…………。
…………肩に鈍い痛みが走った。
「………っ………」
恐る恐る手を伸ばすと…………左肩に、今まで少年が持っていた筈のナイフが深く突き刺さっていた。
当の少年は素知らぬ顔で、削り終わった石を日に透かして眺めている。
「…………役立たずが。…………………二度も同じ術が通用すると思っているのか?……………………高見の見物は日が暮れてからにしろ」
………まだ削れてないな、と独り呟き、痛みにうずくまる少女に歩み寄り、容赦無く肩に刺さったナイフを引き抜いた。
少女は何も言わない。
悲鳴一つ上げずに、ただ我が主に深々と頭を下げて……。
「………仰せのままに…」
とだけ、言葉を発した。
………眼球の傷はいつの間にか、塞がっていた。
―――………日が、傾き始めた。