亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
じめじめした薄気味悪い森の中。

所狭しと並ぶ太い樹木の海を、“闇溶け”で擦り抜けながらライマンと兵士達は駆け抜けて行った。


地上を走る彼等の頭上を、木々から木々へと跳びながら移動する小さな影。

物凄い速さで、鋭利な爪で幹を引っ掻きながら跳び移る。


イブは半分フェーラの姿に戻った状態で意気揚々と駆け抜けていた。
その姿を、地上から追いかけるマリアとダリル。
二人共“闇溶け”をしながら思念伝達で会話をしていた。




―――………なんだか…今日はやけにご機嫌ね…イブ……。

―――……イブ曰く、今日はゾクゾクする日らしいよ。……………………血がたぎるってさ。

―――………お祭りじゃないんだから………。

―――………でも、何となく……分かる気がするよ。………………今日は………嫌な感じがする日だ……。

―――………………なんだか、ね………。










身体の芯が疼く。

鳥肌がたつ。

何でかな?何でだろ?

………凄く、震えてる。

今日という日が近付くにつれて、この震えは増していった。

………隊長がよく言っていた…武者震いってやつ?

…………いいや、これは違うね。

これは………。





……………何処から来るのか分からない天敵への、不安と、焦躁と……恐怖。

(…………歯が痒いなぁ…)






………本能が、叫んでいる。


怖い。

怖い。







…………何が出るのか分からないから、怖い。…狩りの体勢に入る天敵の姿が、見えない。










………何も喉を通らない。

昨日からずっとだ。

欠片程のパンを口に含んでも、それは食べ物ではなく、舌の上を転がる異物同然に思えた。

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