亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

少し離れた場所から護衛を続ける兵士達。
その内の一人が時折近寄って来ては、「何もお食べにならないで宜しいのですか」、「お体の具合でも…」と気にかけてくれるが、ローアンは首を左右に振り続けた。


「………何でもない。下がれ」




避難して来た人々が行き交う、荒んだ首都。街の中央にある神声塔の辺りには、誰も寄り付こうとしない。


………薄気味悪い、という声が辺りから聞こえて来る。


荷物をまとめたり、今夜の宿を探したりしている人々を掻き分けながら、ローアンは一人、人気の無い路地へと入って行った。

何処か雰囲気の違う狭い路地には、ボロを纏い、うずくまる老人や、ギラギラとした怪しい目を向けてくる酒浸りの男など、治安の悪い世界が広がっていた。

一定の距離を保ちながら、護衛の兵士が何処からか見ている筈だ。
何かあったら彼等がすかさず助けに来るだろう。


フードの端をキュッと下げ、無言で路地を歩いた。

………視線の先には、かつてこの首都が栄えていた事を象徴付けていた、高い高い神声塔。

その面影は何処へやら。

今や廃墟の象徴だ。






神声塔の後ろで光り輝く赤い夕焼け。

………もう、そんな時間なのか。



あの丸い夕日が地平線に隠れるのも、もうすぐだ。









(………)

































あの荒野では今、白と黒が睨み合っているのだろうか。

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