亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――時間だ」
闇が空を覆い始める時間。光が消えたのと同時に、低い声が背後から聞こえた。
………その声に、ジスカの背筋に悪寒が走った。
それに対して平然と声の主に振り返るベルトーク。
………真っ暗な森の影から……真っ白な髪が見えた。
長身の黒いシルエットがぼんやりと浮かぶ。
「………今ご到着されたのですか」
「…………ああ。………………たった今…な……」
音も無く、気配も無く、クライブは現れた。
その男がいると分かった途端………強大で奇妙な存在感を、全身に感じる。何と言うか……………徐々に生気が無くなっていく様な……精神の激しい疲労感がある。
その威圧感に押されて中々振り返れなかったが、ジスカは数秒の間を置いてようやく振り返り、素早く敬礼をした。
………曇りガラスの様なぼんやりとした光を宿すその目に見られ、なんだか生きた心地がしなかった。
……今まで………あの真っ暗な部屋の中でしか見なかった男が………腰に剣をつけ、確かな足取りで目の前を横切っている。
………奇妙な光景に思えた。
「…………………………あちらの反応は………どうだ、リンクス」
「……微動だにしません。……以前の様に、荒野におびき出す罠やもしれません」
「…………ふ………もしそうなら…芸の無い奴等だな。…………………構わん。罠だろうが何だろうが…………………前進させよ。………………いくら死のうとも………知ったことでは無い…」
………じっと聞いているジスカは本の少しだけ、顔をしかめた。
「…………………私は………今から移動する。………………『鍵』を見つけ次第、報せよ。…………この戦場の何処かにいるとは限らんがな…」