亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
…ビッと、矢尻が頬を霞めた。
頭上から、当たればさぞや痛いであろう雨が降って来る。
“闇溶け”をして、透けてしまおうとした途端、前から走って来た赤い犬が火を吹いた。
大きめの火の粉が舞い散る。
……………空気が燃えている。
……ブレイズツリーの樹液か。
「………面倒臭い…」
しつこく宙を漂う火の明かりで、“闇溶け”が上手く出来ない。
この能力も、案外不便だなぁと内心で悪態を吐くダリル。
仕方無く、飛んで来る矢を丁寧に避け続けた。
至る所で、ワイオーンが火を吹き始める。
この厄介な消えない火を避ける兵士達だが、中には避けきれずに浴びてしまい、全身をメラメラと炎に舐め回されて倒れる者もいた。
………何やってんだよ。……戦場を明るくしてどうする。
松明代わりとなっていく燃える味方の屍を後に、ダリルは走り続けた。
前方から、こちらに剣を向けて駆けて来る敵兵の群れ。
………衝突、か。
ダリルは走りながらスラリと腰の剣を抜いた。
周りから聞こえてくる獣の呻き声と、突貫する兵士の声と、醜い悲鳴。
不協和音に覆われた戦場。
ダリルに狙いを絞った敵兵の声など、紛れて聞こえやしない。
一歩手前まで来た途端、相手は剣を横凪ぎに払ってきた。
垂直に構えた剣でそれを防ぎ、相手の勢いを削がないまま剣を流した。
本の少しだけ前のめりになった敵兵の頭に、剣の柄で殴り付け、空いている胴体に膝蹴りをお見舞いした。
………柄で殴らずにそのまま脳天に突き刺すことも出来たが…。
………すぐには殺さない。死なせない。
地に倒れた敵兵を無視して越えて行き、二人目の敵兵に取り掛かった。