亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
素早い動作で突きを繰り出してくる。
額、目、喉、肩と、狙って剣先が飛んで来るのを、身体をそらしたりしゃがんだりと一々避けた。
軽く飛退きながら、後ろ手で小さな濃い闇を集めた。
大きく後退するや否や、相手の目の前に一気に近付いた。
「………っ!?」
敵兵が息を呑んだのが聞こえた。
ダリルの腕が、相手の顔に伸びる。
その手には、剣ではなく、真っ黒な闇。
「―――………うるさいよ」
相手の顔を、ダリルは鷲掴みした。
………が、闇を覆ったダリルの手は敵兵士の顔を掴むことなく、頬から耳へと掠めていった。
「―――…うああああぁぁぁっ!?」
兵士は触れられた顔の側面を手で覆い、凄まじい痛みに悲鳴を上げた。
………触れられた部分……右の頬から耳の辺りまで、皮膚と肉が無くなっていた。
行き場の無くなった、迸る血液。むき出しの神経。
“闇入り”により、兵士の身体が削られた。
思わず屈み込んだ兵士に、ライマンが飛び掛かる。
「………犬に食われるのだけは、避けなよ」
ライマンの頭を必死で押さえる兵士にそれだけ言い残し、とどめをささずにそのまま通り過ぎた。
「………らしくないわね、ダリル君」
切りかかって来た兵士の剣を弾き返し、顔を蹴り上げていると、すぐ隣りにマリアが解けかかった“闇溶け”で現れた。
勿論、二人共立ち話をしている暇は無い。
お互い背中合わせで会話をしながら、突っ込んで来る兵士の剣を防いだり、切り飛ばさた味方兵士を避けたりと続けた。
「……ダリル君なら………っと……………………一撃で殺っちゃうのに…………っ……」
垂直に振り下ろされた剣を指先で白刃取りをし、空いている方の手で手刀を放つと、敵の剣は根元から折れた。