亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
肘まである厚めの手袋を填め、鎖で出来た薄い鎧を隊服の下き着込む。
腕や足にも防具を付け、長い剣をもう一本握った。
「………塔にはアレクセイがいる。………俺は大丈夫だ。…退け。………………行かなければならないんだ……」
赤と琥珀色の瞳が、松明の明かりに照らされて揺らめく。
「………しかし……!!」
「退け!!」
大人しくしていたルアが、吠えた。
「…………っ…」
……兵士達は、後ろに下がった。
ここは無理にでも止めるべきなのだが……有無を言わせないその迫力に、口と身体は動かなかった。
黙って道を開ける兵士達を見ながら、キーツはすまなそうに微笑を浮かべた。
「……………勝手な事をして………すまないな。……………………………城を頼むぞ」
見守られながら城門を抜け、荒野へ続く長い坂道を降りて行った。
数匹のワイオーンの頭上をクルクルと回り、その赤い背中に向かって息を吹き掛けた。
吐き出した赤紫の息が、数十匹の小さな蜘蛛へと変化し、目下のワイオーンに一斉に降り懸かった。
赤い身体に降り立った蜘蛛は、素早い動きでワイオーンの口から体内に入り込んだり、眼球に毒牙を突き刺した。
泡を吹いて倒れていく巨体。
イブはその脇にトン、と降り立った。
「………手応えないなぁ……。……………」
血塗れの剣をクルクルと指先で回し、クン、と辺りに鼻を利かす。
………隊長の匂いがしない。
……………何処にいるんだろう。
………一番、隊長に会いたいのに。
ずっと匂いを嗅ぎ取ろうとしているのだが、彼女はこの荒野にはいない。