亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
ちょっと前なら、舌打ちや「うるさい」という罵倒が返って来ていたのに。
………この余裕を感じさせる笑みは何だろうか。
イブは眉をひそめ、小さく溜め息を吐いた。
「………ちょっとばかし改心したの?……………つまんないなぁ―………からかいがいが無いじゃん…」
残念、と肩を竦めるイブ。
「………ま、良いんじゃない?………前の甘ちゃんだったあんたは………見てると苛々しっぱなしだったし…今の方がよっぽどマシかな―?」
「………その口、閉じたらどうだ…」
…ムッとするイブ。リストがやけに大人面していることに腹が立ったが……もっと腹立たしいのは………。
(…………………短剣とか隊服とかから…………隊長の匂いがする―……………)
微かだが、よく知っている懐かしい香りが、奴から漂っている。
………きっと彼女に稽古でもつけてもらったのだろう。
………………羨ましい。こいつ、殺す。
母親を盗られた子供の様な嫉妬が、胸に渦巻く。
………イブの額に、ギョロリと第三の目が現れた。二つの目も、赤く光る。
その場でゆっくりと…直立から、四本足へと変える。
………生えた牙の隙間から漏れ出る息が、赤みを帯びていた。
「………やっぱりあんた………………ムカつく」
「………だろうな………」
すると突然……リストの黒髪から覗く両目が、瞬きした途端、イブと酷似した赤い目へと変わった。
額にも、第三の目が顔を出した。薄ら笑みを浮かべる口元に、尖った牙が見える。
………ありゃ、とイブは首を傾げた。
「………どうしちゃったの―?………フェーラ嫌いのあんたが、フェーラになるなんてさ」